集団指導のメリットとは何か? ジュニア学童担当 岸 健一

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スイミングにおける集団指導のメリットは何か?

先日、会議でスイミングにおける集団指導のメリットは何か?という問いかけがありました。たくさんの子どもが泳いでいる状態ではどうしても待ち時間が発生しますし、まんべんなく公平に接することも難しく、どうしても不満が生じます。

では、(コスト面を考えない前提で)マンツーマン指導の方が良いかというと、そうでもない、集団指導なりのメリットもあるのではないか?という意見も出ました。友達や仲間がいるから楽しいし、泳力向上にもつながる、といった意見です。その実例となるかどうかわかりませんが、ある上級クラスの紹介をします。

 

上級クラスの紹介

NAPのジュニアスイミング上級は、バタフライ・背泳ぎ・平泳ぎ・クロールの四泳法を習得して3級までを合格し、タイムを測定する級です。土曜日の午前中のクラスには七人の子どもが在籍しており、全員を紹介したいところですが、誌面の都合上、小学5年生で1A級の女の子四人(Mさん・Hさん・Tさん・Yさん)のみを紹介します。

 

1A級は、「200メートル個人メドレー」という種目で合格タイムを競う、上級の中でも特に過酷な級です。自分が担当してきたクラスでも、過去この1A級を合格させてあげられずにNAPを退会してしまう子どもを多く見てきたので、合格もしくは毎回ベストタイムを出してもらえるように、モチベーションの維持に気を配っています。

 

同性の友達

この土曜日午前のクラスは女の子が多く、NAP会員歴も長いことから何年も一緒に泳いでおり、仲が非常に良いのが特徴です。NAPでは曜日変更などで通う時間帯が変わることもありますが、多くの子は同じ時間帯で一緒に泳ぎ、共に成長していくので仲良しの子が多く、これが集団指導の一つのメリットかなと思います。特に、小学五年生ともなると心理学における「同一性」という段階に入り始めます。これは、「自分は一体何者なのか?」という問いが芽生え始めることで、この時に重要なのが、同性の友達です。

このような環境にあるので、1A級の女の子四人は同じように練習しながら、同じ200メートル個人メドレーという課題を共有し、共に乗り越えようという意識が高まっているのだと思います。ここで生まれるのは「共感」という感情です。だからこそ、子ども達はお互いのタイムを気にかけ、応援し合える関係にあります。

自分のタイムを気にするのはもちろんですが、他の子の合格タイム、目標タイムも常に気にかけ、問いかけ、励まし合っています。ちなみに、子ども達は「競争」も好きです。ことあるごとにリレーなど勝負をしたがりますが、単に相手をけおとすような「競争」ではなく、お互いのことを理解し合う「共感」の思いの方が強いようです。

これがマンツーマン指導だったら、どうでしょう?コーチと生徒の関係のみのため、コーチの言うことが絶対になったり、コーチの顔色をうかがうようになったり、場合によっては暴力的な関係性になってしまったりするかもしれません。

さて、このクラスですが、まずMさんとHさんの二人が昨年の12月の1B級(50メートルで得意種目を泳ぎ、合格タイムを目指す)という一つ下の級で合格し、2月のテストで好タイムを出していましたが、コロナ禍に伴う休館及び、5月を休会された為に練習回数が減って、1ヶ月半ほどのブランクが空くこととなってしまいました。それでも二人は頑張ってくれ、6月のテストではMさんとHさんが1A級の合格まで後数秒と迫る間に、TさんとYさんの二人も1B級を合格したことにより、8月のバッチテストでは四人が1A級にチャレンジすることになりました。

 

なんらかの強い絆

この段階で、この四人の子ども達になんらかの強い絆のようなものが発生したのではないかと思います。

1A級の合格タイムが11歳になると厳しくなるという事情もあったのは事実ですが、それ以上に「みんなで合格できたらいいね」「あの子も頑張るから自分も頑張ろう」という感情が強くあったのでしょう。練習への取り組み方も、いつもより真剣味があったようでした。

そして、8月のバッチテスト。

まずはMさんとHさんが200メートル個人メドレーを同時に泳ぎ、見事に合格。これは、これまでのタイムの推移からある意味、期待通りの結果でした。もちろん子ども達の頑張りの成果であることは、言うまでもありません。

次いで、TさんとYさんのチャレンジです。二人とも、練習では200メートルやそれ以上の距離は泳いでいますが、今回がバッチテストとしては初めての200メートル個人メドレーです。正直、合格は難しいだろうなと思っていましたが、フタを開けてみれば二人とも見事な泳ぎでなんと合格!予想以上の結果に、子ども達は小躍りせんばかりに喜んでいました。

ちなみにですが、この日のバッチテストでは他にも二人合格、残り一人も大幅ベスト更新でした。

 

「共感力」の醸成

多分、「自分さえ良ければ他人なんてどうだっていい」、という意識を子ども達がもっていたのであれば、このような素晴らしい結果は出なかったと思います。まさしく集団指導のメリットと言えるでしょう。

現在、日本も含めてですが、世界に目を向けると「分断」が社会問題となっています。その状態が継続してしまうと、本当に今の子ども達が安心して暮らせる社会自体の存続が危うくなってしまう、そんな危惧もしてしまいます。それを乗り越えることができる、「共感力」の醸成がこれから子ども達に伝えるべき最も大事なことかと思いました。

ちなみに、四人の子ども達は次のレッド級という、50メートルを得意種目で、かなり厳しめの合格タイムの合格に向け、意欲的に練習に取り組んでくれています。

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