私たちにとって、教えてもらう機会は身近にあると思いますが、人に何かを教える機会となると、あまり身近ではないのではないかと思います。
本書の中で「先生と名の付く人が教え方のプロとは限らない」とあります。しかし一般の方は「先生と名の付く人は教え方のプロ」だと思っている方が多いのではないでしょうか。だから水泳を学びに、NAPの教室に通ってくださっているのでしょう。ですから、私たちは教え方のプロでなければなりません。
また、「教えたつもりは自己満足」という一文もあります。泳法を指導するにあたっては、指導マニュアルがありますので、基本的にその通りにやればいいし、泳ぐ本人にそのマニュアルを見せればすみます。 でも、当然それだけでは不十分です。なぜならば、相手の泳力レベルや理解度に合わせて、教え方や指導内容を変える必要があるからです。
例えば、「目標:クロール25m」に設定した場合にも「25m完泳」したいのか、「綺麗な泳ぎで25m」が目標なのか、「25mを速く」泳ぎたいのか、など細かく目標が違ってきます。更に、開始時点で「浮くことができる」だけなのか、「なんとか泳げる」のか、泳力の違いも様々で、個別に合わせた指導を考えなくてはなりません。
しかし、特に人数の多いグループでは教える相手に合わせるよりも、自分の教えたいことを一方的に教えてしまいがちになります。教えたつもりが、ただの自己満足で、相手に伝わらず、よく理解してもらえないまま時間を費やすことになってしまい、教えたはずなのに、ほとんどできるようになっていない、という事が起ります。
では、「教えた」という状態は何を指すのでしょうか。「学習検証の原則」と呼ばれるものがあり、これによると「教えた相手を見て、今までできていなかったことができるようになっていた」時初めて「教えた」と言っていいそうです。
教えたのにできるようになっていない場合、「相手にやる気がない」「相手が話を聞いていない」「相手が集中していない」「相手にセンスがない」などと、すべて相手側の責任にしてしまうことがあります。確かにこのように思いたい気持ちは分からないでもありませんが、「学習検証の原則」から考えると、教えられても結果がでないのは、教えられる側の責任ではなく、教える側の責任ということになります。そう考えると、教える側の能力向上が必要不可欠です。
相手が「やる気になる言葉がけは?」「話を聞いてもらうには?」「どうやったら集中して取り組んでもらえるか?」等と、考え方を転換していくことが大切です。
指導には、コミュニケーション能力が必要ですし、指導方法も相手に合わせてそれぞれ変化させていかなければなりません。そのため、他の人の行っている指導現場を見学したり、指導方法を紹介している本を読んだり、常に新しいものを吸収していく必要があります。
以上の内容に関しては私たちの指導現場だけでなく、他の仕事や子育てなどにも大いに参考になると思います。
本書の中では、
・スモールステップで少しずつ
・即時フィードバック
・ビジョンを共有する
など「教える」ための様々な事例も多く紹介されているので、興味のある方には、ぜひ読んでみていただきたいと思います。
泳法・競泳主任スタッフ 河村 浩道
向後千春(こうごちはる):早稲田大学人間科学学術院教授。専門は、教育工学、教育心理学、インストラクショナルデザイン、アドラー心理学。ちはる塾主宰。
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